無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

ジャケットの指、できません。

PRISMIC

PRISMIC

 例えば。服を選びに店に入って、目に止まったもの全部あれもこれも手にとって試着していくうちに、気がつけば買い物カゴがとてつもないことになってしまった。みたいなアルバムだと思う。
 ミもフタもない言い方をすれば、少なくとも今のYUKIは優秀なサウンドメイカーでもなければソングライターでもない(その萌芽は十分見せているが)。しかし、圧倒的な存在感を持つボーカリストである。実に雑多な音が散りばめられたこのアルバムをスリリングにギリギリひとつにまとめあげているのはそのボーカルの力に他ならない。日暮愛葉ズボンズスピッツ、ミト(クラムボン)、ラッセル・シミンズ(!)、會田茂一などなど様々なゲストがかなり自由に自分らの音を鳴らしているが、どの曲もその中心にあるのはYUKIの声だ。同時に、曲、アレンジ、バックを務めるミュージシャン、そういった諸々の取捨選択が、いくら突飛なものに見えたとしても結果的に正解だったと思わせてしまう力が本作にはある。それは、無意識のうちにもどこか客観的な視点で自分の存在を見ているバランス感覚があるからだ。それは恐らく前バンドでの経験によって培われたものだと思う。そしてその前バンド時代には見られなかったような、自分の心の淵に一歩ずつ下りていくような歌詞がいい。一人の人間として、大人の女性として、素のまま音楽に向き合うソロアーティストYUKIの姿がここにある。
 JAMというあまりにも巨大な「呪い」を全てここで振り払ったとは思えないが、ここでの彼女は自分の思うままに音楽に触れられる自由を思いきり満喫しているように見える。とても幸福な第一歩だと思う。