無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

青い春。

中村一義 −博愛博 haku-ai-haku
■2002/05/16@渋谷AX
 いろいろ意見はあるのだろうけど、やはり去年のロックインジャパンフェスでの中村一義のステージは一つの事件だったと思う。あの空間がいかに愛と祝祭とフィナーレとがごたまぜになったピースフルなものだったかは、シングル「キャノンボール」収録のライブ音源を聞くだけでその一端が垣間見れるだろう。そしてついに彼が初のツアーを行う。これはもう行くしかない。というわけで、仕事を休み渋谷まで行って来ました。久々の渋谷AX。グッズコーナーに行くといろいろ売ってる。今回は12公演全て色分けされていて、チケットやTシャツがその公演の色になっている。今回の渋谷は青(紺)。ということで、紺のTシャツをゲットし、開場を待つ。ステージ右寄り、結構前のほうの位置を確保した。メンバーの顔とか、表情がはっきり見えるくらい。
 昨年のロックインジャパンもそうだし、今回のツアーもそうだけれども、彼がステージで歌うことを決意したのは現在のバンド「100s」の存在なしにはなかったことだろう。ここ2枚のシングルでも一聴瞭然だけれども、以前の宅録打ち込みブレイクビーツとは一線を画す非常にオーソドックスなバンドサウンドになっている。中村一義本人の意識としては、自分の単独ツアーというのではなく、100式というバンドの初のライブツアー、という感じなのではないだろうか。自分はあくまでこのバンドの一員である、と。ステージの上でメンバーと談笑する楽しげな彼の表情からは、このメンバーで音を出すのが楽しくてしょうがない、という気持ちが溢れかえっていた。
 バンドは決して下手なわけではないけれども、上手いミュージシャンを集めたというのではなくて、価値観だとかセンスだとかを共有できる同世代の人間、一緒にいて楽しい仲間が集まったという感じで、すごく青春的な、青臭いというか衝動的というか、そんな匂いがバンドからは感じられた。内輪ネタで笑っているのとかは見ててちょっと引いてしまいがちになるときもあるけれども、楽しそうに笑う中村君の顔が今回のツアーの意味を全て物語っている気がする。観客に対しても「みんなもこっちおいでよ、楽しいよ」と、そう言ってるような感じなのだ。
 セットとしては、昨年のロックインジャパンでやった曲+新旧織り交ぜてと言う感じ。「永遠なるもの」とか、生で聞くとまた感動的。「グレゴリオ」〜「君ノ声」の流れは、昨年も一緒だったけど、本当に泣ける。楽しくてしょうがないんだけども、涙が出てきてしまう。まさに「泣き顔も笑顔」というハッピーな空気を全編演出したステージだった。「キャノンボール」で本編終了後、アンコールはちょっとアコースティックに。特に「ハレルヤ」の時は、メンバー全員がステージ前に集まり、一本のマイクを前に車座になり、さながらキャンプファイヤーの雰囲気。彼が一人で作った楽曲がバンドで、そして人前で演奏されることによって生まれる幸福な時間。これはあの場にいないとわからない、上手く伝わらないものかもしれないけど、本当に感動的だった。
 新曲も何曲か聞けた。来たる次のアルバムも、全編100sをフィーチャーしたものになるだろう。しかし彼がオーソドックスなバンドサウンドで、普通のポップスをやってしまうことで、かつて中村一義中村一義たらしめていたものがなくなってしまうのではないかという懸念がはっきり言って僕にはあって、それは「キャノンボール」、「セブンスター」という2枚のシングルを聞いても消えたわけではない。でも、初めてバンドらしいバンドの中で自分と他人の相互作用で音楽が成長していく過程を楽しんでいる彼の中には、今までにない素晴らしい音楽の萌芽が目覚め始めているのだと思う。

■SET LIST
1.犬と猫
2.ショートホープ
3.グッデイ(新曲)
4.セブンスター
5.ロザリオ
6.ジュビリー
7.永遠なるもの
8.グレゴリオ
9.君ノ声
10.新世界(新曲)
11.1,2,3
12.キャノンボール

13.恋は桃色
14.(新曲)
15.ハレルヤ
16.笑顔(SE)

17.ロックンロール