無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

暗黒と憎悪の果ての希望。

Vol. 3: The Subliminal Verses

Vol. 3: The Subliminal Verses

 マーダードールズやストーンサワーなど、メンバーのソロプロジェクトの活動が本格化し、インタビューなどで聞かれる発言もかなりきわどくバンドの将来を危ぶむものが多かったスリップノット。解散という噂もあながちウソではなかった状況からの見事な復活である。
 確かにサウンドはヘヴィなものではあるが、「デュアリティ」をはじめどの曲にもメロディーがしっかりと形作られているし、とにかく怒りと絶望を無軌道に撒き散らすことでしか音楽を鳴らせなかった過去2作に比べるとサウンドの最終形が明確に意識された上で構築されている気がする。『アイオワ』を聞くと呪い殺されそうな圧倒的な負のパワーにあてられてしまうこともあったくらいだが、このアルバムでは激しい曲でもそういった感覚はない。歌詞の上でも自分という存在を生み落とし、そして疎外して来た世界に対する憎悪を叩きつけるものではなく、そこを乗り越えた上で自分と世界の間の溝の深さを確かめるようなものになっている。これまでのスリップノットが全てを外から破壊する南斗聖拳だったとしたら、内からこみ上げてくる感情を喚起する本作は北斗神拳である。特に「ヴァーミリオン」の美しいコーラスは感動的だ。今までのスリップノットには生み出せなかったであろう素晴らしい曲だと思う。
 彼等がバンドの危機を乗り越えた原因はいろいろあるのだろうが、結局は各々メンバー間の絆と自分たちの音楽の持つ力を信じたことであるのだと思う。世の中に対する憎悪と過去への怨念でのみ成り立っていたような音楽が、ここにきて「再生」という希望の光を灯すことに、とても人間くさいドラマを僕は感じる。そう、僕がすべからくロックというものに求めてやまないドラマそのものだ。あのスリップノットが、という感は拭えないが、それでもこのアルバムは肯定というキーワードを抜きにしては語れない。