無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

GREEN DAYと僕のドラマ。

GREEN DAY 〜JAPAN TOUR 2005
■2005/03/22@月寒グリーンドーム
 3年ぶりのグリーン・デイ in 札幌。この日は夕方雨とも雪とも言えない微妙な天気。でも傘は全然いらない程度ではあった。しかし、会場内には荷物を預ける場所がないとのことで、会場の外にあるクロークにバッグやコートを預けてから入場しないといけないのだった。入場は決してスムーズというわけではなく、かなりの長蛇の列。3月下旬とは言えこの時期コートなしで長い時間外で待つのはかなりきつい。主催者は少し考えろよ、と思った。マジおかげでちょっと風邪気味。せっかくインフルエンザが治ったのに。
 気を取り直してアリーナ内へ。この日のオープニングアクトシュガーカルト。名前は知ってるけど聞いたことが無かったので楽しみにしていた。のだけど、ギタリストに赤ちゃんが産まれ、急遽帰国してしまいこの日は3人でのステージだった。かなり一生懸命にプレイしていたし、会場のリアクションも決して悪くはなかったのだけど本来はもっと厚い音なんだろうなあ、と思う。残念だけど、おめでたいことだから仕方がない。ポップなメロディーとヘヴィーなリフの絡みは聞いてて小気味よく、会場を温めるには十分の気合の入ったステージだった。
 約30分のセットチェンジ。SEでクラッシュの「I Fought The Law」とかラモーンズの「Blitzkrieg Bop」とか聞きながら和んでいるといきなりステージにピンクのうさぎとゴジラ(?)の着ぐるみが現われてプロレスごっこをし始めた。もしかして中の人はメンバーかと思ったけどローディーか誰かだと思う。どっちが勝ったかグダグダのまま彼らはステージ裏にはけ、いよいよ本編のスタート。
 1曲目「American Idiot」から会場のヴォルテージは超沸騰、MAXに登りつめる。そしてアルバムの曲順通り「Jesus of Suburbia」へ。10分を越える構成の曲をサポートメンバーを携え、すいすいと乗りこなしていく。もちろん元曲の構成がそうだからなのだが、長さを感じさせることなく一気に展開していくスピード感は生で聞くとそのすごさが更に実感できる。これを実際ステージで再現するのは生易しいことではないはずだ。特にドラムのトレはワンコーラスごとに変化すると言っていいほどの様々なリズムパターンを一瞬の緩みもなく叩きだしていた。これだけで感動。ステージ後方のスクリーンはさほど派手な映像演出はなかったが、花火爆発したり火柱上がったりとなかなか消防法ギリギリの仕掛けが多数あった。もしかしてこのままアルバム1枚全曲通してドラマティックに演出してしまうのかと思いきやそうではなかった。実際僕はかなりそれを期待していたのだけど、「Bouleverd of broken dreams」を飛ばし「St.Jimmy」まで行ったところで選曲はがらっと変わった。誰もがよく知っている、グリーン・デイグリーン・デイによるグリーン・デイファンのためのヒットパレードとなった。僕は『AMERICAN IDIOT』というアルバムがステージでどのように演奏されるのか、あのドラマがどのように再現されるのかを非常に期待していた。その期待は半分応えてもらった。そしてもう半分は違う形で応えてもらうことになったのだ。
 過去のヒット曲を聞いていても、その意味は3年前に生で見たときと全く違うのだ。いや、というよりは新しい意味を持っていたと言う方が正しいだろうか。なぜならその間には『AMERICAN IDIOT』という歴史に残るであろう傑作が産み落とされているからだ。あのアルバムこそ、グリーンデイの辿ってきた歴史そのものである。あのアルバムを創った事実そのものがグリーン・デイにとって何事にも増してドラマティックなことなのだ。事実は小説よりもと言うやつである。そのドラマを経て鳴らされる過去のヒット曲群はどれも以前と同じように楽しくストレートに響いてくる。でも、やっぱりそのドラマの分だけ違うのだ。「Knowledge」では例のごとく観客をステージに上げて楽器を弾かせる。ビリーが叫ぶ。「ギターデキルヤトゥー!」結局ギターだけでなくベース、ドラムと3人とも客に演奏させていた。しかもみんな結構上手かった。いつものパフォーマンス。お決まりの演出。しかし、これもやはり違う。ステージにいる3人のセイント・ジミーと会場を埋めた数千人のジーザス・オブ・サバービア。この関係があまりにも見事に成立していたのだった。
 会場全体を揺るがすような「グリーン・デイ」コールに押され間髪入れずアンコールへ。噂には聞いていたけど実際目の前にすると驚きの(しかし意外とハマっていた)クイーンの「We AreThe Champions」カバー。ここで想像を絶する量の紙吹雪が会場中に降り注ぐ。オレとお前、セイント・ジミーとジーザス・オブ・サバービア。それぞれが各々人生で辿る物語の主役である。グリーン・デイがずっと持っているそんな当たり前なメッセージを改めて感じた瞬間だった。これで大団円、と思いきやさらに演奏は続き、ラストの「I Fought The Law」カバーまで実にアンコールだけで9曲、2時間以上に渡る大盤振る舞いのステージだった。
この日、アルバム『AMERICAN IDIOT』の後半は演奏されなかった。セイント・ジミーが死に、主人公が全てを失って故郷に帰る物語は青春の終わりと言うにはあまりに重く、暗いものである。程度の差はあれ、そうして何かを失うことは誰にでも起こることだ。それは自分たちの人生で経験すればいいことで、俺たちのステージは楽しめばいいじゃないか。そんな風に彼らは言っているように思えた。しかし、言うまでもなくこのあまりにも楽しいライヴは、重く苦しい人生のドラマを経た3人が鳴らしているのだ。ロックはあまりに脆い反面、非常にタフな音楽である。そしてグリーン・デイはいまやそのタフネスを最も正しく表現するバンドのひとつである。そこから僕達は明日をサヴァイヴする勇気を受け取るのである。事実、この日はそういうライヴだったと思う。ありがとう、グリーン・デイ。こうして、また僕とロックの物語は続いていく。

■SET LIST
1.American Idiot
2.Jesus of Suburbia
3.Holiday
4.Are We the Waiting
5.St.Jimmy
6.Longview
7.Hitchin' a Ride
8.Brain Stew
9.Jaded
10.Knowledge
11.Basketcase
12.She
13.King For a Day
14.Waiting
15.Minority

16.Maria
17.Bouleverd of Broken Dreams
18.We Are The Champions
19.Dominated Love Slave
20.2000 Light Years Away
21.Christie Road
22.F.O.D.
23.Going To Pasalacqua
24.I Fought The Law