無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

エモーションの河。

Rio de Emocion (リオ・デ・エモシオン)

Rio de Emocion (リオ・デ・エモシオン)

 改めて考えてみると、『Viva la Revolution』を出したとき、降谷建志はまだ20歳だったのである。『Buzz Songs』の時は19歳だ。いかに彼の才能が早熟だったかということが分かる。現在26歳にして、降谷は数多の平凡なミュージシャンにとっての一生分くらいの成功と実績を手にしてしまっている。そんな彼が、これ以上DAで音楽活動を続ける意味があるのか、と悩むのは致し方がないと言えるかもしれない。彼自身はnidoなどの別ユニットでDAとは別の実験的な音楽活動を行っている。現在、純粋なミュージシャンとしての彼の創作欲求はそうした方向であるようだ。その間で彼の音楽家としての葛藤があったのは、近年のDAの活動ペースを見ても明らかである。
 前作『HARVEST』でも腹を括った感は見えたが、今作ではもう完全に、DAとしての活動に対して迷いがなくなったように感じる。降谷建志が持つ最大の武器、メランコリックなメロディーとエモーショナルなヴォーカリゼーションが戻ってきているからだ。『Viva la〜』以降、意図的に封じていた感もあるその武器が、今作ではほぼ全開である。彼は一貫してファンに対して誠実な人間であると思うし、また、サービス精神もある。が、今作でのこうした方向性は単にファンを喜ばせるため、というわけではない。DAのマス・アピールと、自らの実験的な創作欲求。その両方はミュージシャン降谷建志を構成する2つの極点であり、どちらかだけでは彼の音楽活動は成り立たないのである。コインの裏表なのだ。あるいは男と女、ツッコミとボケのように、一方がもう一方をどうしても求めてしまうという、運命共同体なのである。と言ってもサウンドとして今までの焼き直しではないところが降谷のプライドであり、アーティストとしての業である。ドラムンベースを基調にしたリズム構成は前作を踏襲しているが、ハードなギターは抑制され、フラメンコ或いはサンバ的なアコースティックギターの響きが全編通じて印象に残る。非常に柔らかい感触の音であり、それが全体のエモーショナルな雰囲気にも繋がっている。BPMが早くても非常に耳に優しい。するっと聞けるけど、相当緻密なアレンジとバンドの高いスキルの上に成り立っているアルバムだと思う。
 DAは決して降谷建志にとってのガス抜きなんかではない。多くのファンはとっくに知っていたことだが、降谷自身がようやくそのことに自覚的になったことが今作の降谷節復活に現われているんじゃないだろうか。彼自身は否定するかもしれないけど、これはもうそういうことなのである。だから次のアルバムも2年後くらいにちゃんと出ると思う。ある意味、今のDAはバンドとして最も健全な状態と言えるのじゃないだろうか。