無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

2017年・私的ベスト10~映画編(1)~

 今年も劇場で50本を目標にしましたが惜しくも届かず。来年がんばります。今年は上位3本は別格で、それ以外はほぼ同列。全部好き。そんな感じです。なので順位にあまり意味はないかもしれません。

■10位:沈黙-サイレンス-

 遠藤周作の「沈黙」を、巨匠マーティン・スコセッシが映画化。実に、企画から30年近くかかって実現した作品とのこと。本作が原作小説をいかに忠実に、そして丁寧に描写しているかは、遠藤周作の弟子である作家の加藤宗哉氏インタビューを読むと非常によくわかります。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/15/238739/012700229/

 ここでも言及されているのですがキチジローは周作本人であり、また弱い人間そのものの象徴だと思います。強い信念を持って生き続けられない、市井の人々の象徴としてキチジローは描かれている。彼はアンドリュー・ガーフィールド演じるロドリゴ神父と対をなす存在ですが、ロドリゴも劇中で彼を嫌忌します。ロゴリゴはキチジローの弱さが自分の中にもあることを知っているからでしょう。写し鏡のように、彼の弱さに向かい合うのが怖いのだと思います。そしてその弱さというのは宗教とは別にして、目の前にある現実や理想との乖離に対して、多かれ少なかれ誰しもが持つものだと思います。そういう普遍的なものを描いている作品だと思います。
 とにかく重厚で、見ごたえのあるドラマです。画面の美しさも素晴らしい。日本人キャストも総じて良かった。強烈な印象を残すイッセー尾形窪塚洋介浅野忠信はもちろん、モキチ役の塚本晋也は素晴らしかったと思います。日本人や日本文化、日本語の台詞や細かい風俗に至るまで、ハリウッドでここまで正しく日本が描かれた映画は殆どなかったんじゃないだろうかと思います。テーマとしては重いし、長いし、見終わって爽快感やカタルシスがある作品ではないけど、見ておいてよかったと思いました。


■9位:ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー2

 私も意地でも『リミックス』という邦題は使わない派です(笑)。
 いわゆるマーベル・シネマティック・ユニヴァース(MCU)作品でも今年最も注目されていた作品でしょう。大ヒットとなった前作を受けて、予算もスケールも大きくなった2作目。
 前作のラストで暗示されていた通り、今作は主人公ピーター・クイルと父親の関係を描いたものですが、それだけに留まらず父子、家族、仲間、姉妹、様々な「絆」の映画でした。フリートウッド・マック「ザ・チェイン」が要所で流れるのも当然。その他音楽の使い方は相変わらず素晴らしい。ジェームズ・ガン監督天晴です!前作に比べて曲が地味なんじゃないかという意見もあるようですが、曲単体のクオリティは高いままに映画との結びつきはむしろ前作の比じゃないわけで。よくぞこの選曲をしたなあと思う他ないです。前述の「ザ・チェイン」、ジョージ・ハリスン「マイ・スウィート・ロード」、キャット・スティーブンス「父と子」(これがかかるシーンは泣ける!)のようなあからさまに重要な意味を持つ曲はもちろん、冒頭に流れるELO「Mr,ブルースカイ」がクライマックスでそう来たか!と思わせる展開に繋がるのはやられました。個人的にはサントラを聞いてから見に行った方がいいと思います。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(GotG)以降、ありものの曲を使って劇中の展開とリンクさせるようなやりかたは『オデッセイ』や『スーサイド・スクワッド』など一種ブームのようになりましたけど、ジェームズ・ガン監督のセンスはその中でも目立ってると思います。
 あと、とにかく絵が綺麗。色が美しい。黒基調の宇宙ものというイメージを覆して、ほぼサイケデリックとすら言えるカラフルさ。ロジャー・ディーンの描いたYESのアルバムジャケットみたいなのですよ。近年はダークでシリアス路線になりがちなアメコミヒーローものですが、軽口をたたき続ける登場人物たちの軽妙なやり取りやポップな音楽で全編を彩るGotGはそれとは一線を画しています。しかしそれでいて内容が浅いわけではない。ハリウッドの大作映画としては現在最高のクオリティの一作と言っていいのではないでしょうか。


■8位:お嬢さん

 公開前から相当エロいという話は聞いていて、R18というレイティングでどんなものかと期待は膨らむばかりでした。原作はイギリスのサラ・ウォーターズが書いた「荊の城」。舞台設定をヴィクトリア朝から日本統治時代の朝鮮に変更しています。
 同じ時間軸の話を登場人物の視点を変えて描く第一部と第二部。これにより、同じ画面も全く違う意味を持つ仕掛けになっています。主要キャストそれぞれがお互いに裏を持って相手を騙しているという設定なので、パタパタとドミノが倒れていくように伏線や謎が回収されていくさまは実に鮮やか。そうしたどんでん返しやミステリー、サスペンスとしての面白さはもちろん、画面の美しさとエロさの変態性が映画に奥行きとオリジナリティを与えていると思います。日本人がむしろ忘れかけている(ような気がする)大正~昭和初期のエログロさ、江戸川乱歩夢野久作のような妖しさと不気味さとどこかコミカルさを持つ演出。体当たり演技を見せた主演女優二人はもう、満点です。印象に残るシーンは多いですが、直接的なベッドシーンよりも珠子が秀子の歯を指貫でしこしこと削るシーンがとてつもなくエロかったです。ここの長回しワンカットのシーンががチャヌク監督の変態性をよく表していたのではないでしょうか。
 原作と大幅に変更したという第三部とラスト。個人的にはもうひと波乱あるかと思っていたので若干拍子抜けでしたが、ヒロイン二人の解放ということを考えればこれでよかったのかもしれません。キャストたちが話す日本語は多少のぎこちなさがあるものの、非常に頑張っていたと思います。ここでも主演女優二人は文句なしでした。


■7位:ギフテッド

 「ギフテッド」とは、先天的に平均よりも顕著に高度な知的能力を持っている人のこと。そうした子供に対して通常の学校に通わせるのではなく、特別に支援する教育のことを「ギフテッド教育」という。本作では数学に対して特別な才能を持つ7歳の女の子、メアリーが主人公。
 メアリーに対して普通の教育を受け普通の人生を歩ませたい叔父と、ギフテッド教育によりその才能を開花させようとする祖母がメアリーの親権と教育権を争う。日本ではアメリカに比べて一般的ではないギフテッド教育ですが、詳しい背景などを知らなくても問題ない映画です。要は、子供にとって何が幸せなのか、人生にとって何が幸せなのか、という根源的な問いかけになっています。人間ドラマと法廷劇が中心ですが、とにかくメアリー役のマッケナ・グレイスちゃんの演技が素晴らしい。乳歯が抜けて前歯がないのもキュートで、表情や台詞回しは大人の役者顔負け。子供らしさだけでなく大人びた複雑な感情も見事に表現していて、末恐ろしいですね。物語や状況としては全く違いますが、子役の圧倒的な演技と父親(本作では父親代わりの叔父ですが)と少女の絆、彼女にとっての幸せとは何かをテーマにしているという意味では『アイ・アム・サム』を思い出しながら見てました。あの映画ではダコタ・ファニングがすごかったですね。
 映画の中ではリンゼイ・ダンカン演じる祖母が悪役という風になってしまうんですが、決してそうとばかりも言えず。純粋にメアリーのため、そしてメアリーの才能を伸ばすことが人類のためだと思って行動している節もある。いわゆる毒親問題とも関わってくると思うんですが、第三者から見て毒親かどうかという判断は非常に難しくて、ギフテッド教育が一般的でない日本でもいろんな視点で考えさせられる映画だと思います。エンディングについては賛否あるようですが、このどっちつかずでモヤモヤした結末はとてもリアルだと思いました。でもその中でメアリーが楽しく笑っているというのが全てじゃないでしょうか。
 マーク・ウェブ監督にとっては尻切れトンボになった『アメイジングスパイダーマン』シリーズからの復帰作で、元々のフィールドである小規模予算のミニシアター系映画に帰ってきたという所でしょう。映画のテイストとはやや違うかもしれませんがのびのびと撮っている様が感じられて良かったです。


■6位:ラ・ラ・ランド

 長文感想はすでにブログに書いています。
http://magro.hatenablog.com/entry/2017/04/03/122441

 ミュージカルとしては申し分なしです。ですが物語、テーマとしては違和感を感じました。主人公たちの夢に対する考え方や彼らの選んだ人生とその描き方についてです。見た人それぞれに納得いかない部分や意見はあるでしょうが、映画としての評価はまた別です。過去の遺物としてほぼ消え去ったかに見えるオリジナルのミュージカルをハリウッドに復活させるという壮大な野望をチャゼル監督はやり遂げたわけです。映画史に残るであろうアバンタイトル、高速道路でのミュージカルシーンはやはり秀逸です。2017年は『ラ・ラ・ランド』があったと記憶されるような象徴的な一本であることは間違いないと思います。

(続きます)