無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

愛すべきヒーロー。

 超有名なマーヴェル社のコミックの映画化。ジェームス・キャメロンとか、ティム・バートンとか監督候補が二転三転したけれども、結局はサム・ライミに。これが、結果見れば大正解だったと誰もが思うだろう。よく考えりゃ『ダークマン』撮った人だもんね。
 以前『X-MEN』見たときの感想(id:magro:20001029#p1)にも書いたけれど、ハリウッドでこういうアメコミものを映画化して、成功するものというのはすごく人物描写に力を入れることが多い。そうでないと、単なるマンガで終わってしまい、ドラマとしての深みがなく、リアルなヒーロー像が描けない、それは作品そのものの深さとリアリティの欠如になってしまうからだと思う。単なるお子様映画になってしまうのだ。ティム・バートンの『バットマン』は、その最も成功した例のひとつだけれども、この映画はそれに勝るとも劣らない。こういうのは、監督の原作に対する愛情がそのまま表れるような気がする。本作も間違いなくそうだろう。
 スパイダーマンとなる主人公はどこにでもいる普通の高校生。学校の成績はいいが、目立たなく、いじめられっ子に目をつけられ、好きな女の子にまともに声をかけることもできない。まず、ライミ監督はいかにこの主人公がダメ男くんかという描写に、とことん時間をかける。そして、遺伝子操作されたスーパースパイダーに主人公が噛まれ、一夜にして超人的な能力を手に入れてからも、その力で主人公が何をするかというと、いじめっ子をぶっ飛ばし、好きな子をデートに誘うために賞金付きのアマレス大会に出たりするのだ。もう、欲望爆発。いやっほうとクモの糸で町中をターザンばりに飛び回るシーンは、「こいつ、どうしようもねえなあ。どこがヒーローだよ。」という感じでしかないが、誰だってこんな力を手に入れたらそうなるんじゃないの?という、「Friendly Neighborhood=親愛なる隣人」という、スパイダーマンの愛称そのものの感情を見る側に喚起させるのだ。その主人公がある事件を境に、この力を自分のためではなく正義のために使おうと決意するわけだけれども、その過程が、その前のダメダメぶりを丹念に描いているからこそ、すごく説得力を持ってくる。この辺の丁寧な作り方は監督の手腕に唸ってしまう。悪いけど、『X-MEN』なんてこれに比べたら薄っぺらい。映画の前半は丸々ここまでで費やされる。この潔さがイコールこの映画のすばらしさだと言っても過言じゃないと思う。あと、当然のことながら主人公ほどではないにしても、悪役の描写もかなり時間をかけている。それゆえにクライマックスも単なる善悪の戦いだけに終わらないのだ。
 そして、宿敵、グリーン・ゴブリンとの最後の対決に勝利した後のエピローグに背筋がゾクッときた。ストーリーの核心に触れるので詳しくは書かないけど、あまりにも巧妙に続編の存在と次の敵役を暗示するラストシーン。そして、それにより、主人公と、その他周りの人間を巻き込んでいくであろう過酷な運命にもう、心臓がドクドク言ったまま映画は終わる。うわー、上手いなあ。娯楽大作かくあるべしという、お手本のような映画だ。すでにアメリカ本国だけで軽く3億 5000万ドルの興行収入をあげているけれども、原作の人気だけではここまで行かないだろう。ヒーローもの?アメコミ?ハリウッドのアクション大作?と言って敬遠してる人にこそ見てもらいたい。